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店主の日記

帳場から 二代目店主 三輪文彦

金庫

金庫が開いていた。番号を知っているのは、私だけのはずだ。

在庫は、1。

あの本のこと

今日、どなたかが、あの郷土誌を最後の丁までめくった。通販の画像を見られた記録で分かる。

裏表紙の見返しの名前を、私も数えた。十人。いちばん新しい三人は、この秋うちで蔵書を買い取った方々だった。新着に載せた、書き込みのある本の持ち主だ。三人とも、ご家族は「急にいなくなった」とおっしゃった。

あの本は先代のころから店の奥にあって、何十年も売れなかった。春に通販へ載せてから、半年で三人に売れた。そして、見返しのいちばん最後に名前のある人の蔵書に紛れて、必ずうちへ戻ってくる。

もう売らない。帳場の手提げ金庫にしまって、番号も変えた。あの本が最後にうちへ戻ってきた日の、月と日の四桁にしてある。忘れないように、ここに書いておく。

帳場の机。算盤、帳面、湯呑み、右端に手提げ金庫

書き込みの終わり

新着に載せた三冊の書き込みのことで、お問い合わせをいただいた。どの本も、前の持ち主の方が最後に読んでいた本だそうだ。

写真を撮り直そうとして、気がついた。三冊とも、書き込みの最後だけがカタカナになっている。持ち主も、筆記具も、書いた時期も違うのに、電報の文面のようにぶつ切りで。三つを並べると、一つの文になる気がする。

研究室の本

文京区の大学で、この春に退官された先生の研究室の片づけをお手伝いした。専門書が三百冊ほど。棚の奥から鏡花全集の端本が六冊出てきて、先生は「学生のころ、神保町で買ったんだよ」と笑っておられた。

本は、たいてい古本屋へ戻ってくる。

練馬へ出張買取

定休日を使って、練馬区のT様のお宅へ出張買取にうかがった。郷土史と民俗学の本が八百冊ほど、段ボール十四箱。大学院で村の聞き書きを調べていたお嬢さんの本だそうで、お母様は「急にいなくなってしまって」とだけおっしゃった。理由はうかがわなかった。

閉じた村の聞き書きの冊子が何十冊もあった。どれも、よく読まれている。郷土史の棚が、またひとつ厚くなる。

横浜からの段ボール三箱

宅配買取で、横浜市のA様から段ボール三箱が届いた。文庫と児童文学が中心で、どれも大事に読まれた本だった。鉛筆の書き込みが多いが、小さくてきれいな字で、読んでいて邪魔にならない。

お申し込みはご本人ではなく、ご主人からだった。

古書会館の市

月末の市(業者どうしの交換会)。郷土誌の山を三口落札した。荷を解くのが楽しみだ。帰りに神田川沿いを歩いたら、もう金木犀が匂っていた。

八王子の旧家

八王子市の旧家で、郷土史の蔵書を二千冊ほどお譲りいただいた。持ち主の方は地元では知られた郷土史家で、この夏から行方が分からないのだという。ご家族は「本は、好きな人のところへ」とおっしゃった。

万年筆の書き込みのある本が多い。几帳面な字で、頭注欄がほとんど埋まっている。

写真を撮る仕事

通販を始めて四か月。在庫の写真を撮るのが、いちばんの仕事になった。郷土誌は買い手が少ないけれど、遠くの方から「祖父の村の本です」とご注文をいただくと、こちらまでうれしくなる。

通信販売を始めます

先代が店を開いてから七十年目の春に、通信販売を始めることにした。店の奥には、先代のころから売れずにいる本が何冊もある。この機会に、ぜんぶ載せてしまおうと思う。

古い本は、次の読み手のところへ行ってこそだ。